日本人の25% の人の血糖値が危険信号
一般的な血液検査の検査項目の一つに、血糖値(血液中のブドウ糖の値) があります。110mg/dl下が正常値で、空腹時で140mg/dl以上の場合は、明らかな糖尿病と診断されますが、問題は110~1400mg/dlの場合です。この数値に該当する人は、まず確実に糖尿病予備軍であり、動脈硬化が速く進みやすいことがわかっています。
そして現在、日本人の25、およそ4分の1 ほどは、糖尿病および予備軍であるだろうと推測されています。それでは、血糖値が110~1400mg/dlの場合、なぜ動脈硬化が進みやすくなるのかです。
糖分は体にとって不可欠な三大栄養素の一つです。この糖分を細胞の中に栄養として取り込むときに必要なのが、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンです。
このインスリンが不足すると糖分は細胞内に取り込まれず、血液内にたまってしまいます。
そのため、インスリンとは、血糖値を下げるホルモンということもできるでしょう。ところがなんらかの理由で、インスリンは分泌されているのに、それが効かないために糖分が細胞に取り込まれず、血液中を巡ってしまうということがあります。
このようにインスリンの効き目を悪くする体の傾向を「インスリン抵抗性」といいます。そして、インスリン抵抗性がある状態を「耐糖能異常」といいます。この耐糖能異常の状態になると、血液内に糖分が正常値以上にあるようになります。
すると、この状態を解消しようとする働きによって、血糖値を下げるインスリンが通常以上に分泌されます。「糖尿病予備軍」である血糖値110~1400mg/dlのときは、「明らかな糖尿病」と診断されるときよりもずっとさかんにインスリンが分泌されています。ところで、糖尿病には、
- インスリンが不足しているために起こるインスリン依存型
- インスリンは豊富にあるのに糖分を細胞中に取り込むことができないで起こる非依存型
の2種類があります。そして、多くの糖尿病は後者の非依存型なのです。
悪いことが次々に起こる
インスリン抵抗性、つまりインスリンが効きにくい傾向があると、正常より多くのインスリンが分泌されますが、インスリンが多すぎるとやっかいなことが起こります。
1つには、血圧が上昇します。これは、インスリンが腎臓に働いて、塩分を排泄しないようにするからです。
実際、最近では、インスリンが多すぎるために起こる高血圧のかたが増えています。
次に、インスリンがたくさん分泌されると、自動的に肝臓は中性脂肪(体の中で最もありふれたタイプの脂肪で代表は皮下脂肪)を作ろうとする傾向があり、逆に善玉コレステロール(動脈硬化を防ぐ働きをするコレステロール) が減少してしまいます。
そして、体内での脂肪の分解がうまくいかなくなり、脂肪の合成が高まるばかりで、その結果、高脂血症(血液中に脂肪が著しく増えてた状態) が起こります。
さらに、血液中にふえた糖分は、たんばく質にくっつく性質があり、糖化たんばくと呼ばれるものを作ります。この糖化たんばくは、血管に障害を与え、病気を引き起こすのではないかと考えられています。
このようなことから、インスリンの分泌が多すぎると、確実に動脈硬化は進行してしまうのです。
動脈硬化の危険因子(病気を起こす要因となるもの) は7つありますが、血糖値が高いこともその1つで、血糖値が低いかたに比べて危険は3倍高まるといわれています。
1日1万歩以上歩く
では、検診などで「血糖値が110~1400mg/dlの範囲にあり、まだ明らかな糖尿病ではない」と診断されたら、どうしたらいいのでしょうか。
「糖尿病とはいえない」といわれれば安心されるでしょうが、実はこの状態に至るまでに10年以上という長い病歴があり、すでに健康とはいえない状態となっているのです。
そして、糖尿病とはいえなくとも、高血糖症(血液中に糖分が著しくふえた状態) や高脂血症、高尿酸症(血液中に老廃物の尿酸が著しくふえた状態) などは無自覚に進行します。そして、ある日突然、目が見えなくなって眼科に行き、そこで初めて糖尿病と診断されるかたも多いのです。
血糖値が110~1400mg/dlと診断された場合には、症状はなくても病院を受診すべきです。
最近は、インスリン抵抗性を改善する薬剤や、インスリン非依存型の糖尿病の進行をおさえる薬剤、高脂血症を改善する薬剤もいいものがありますので、医師との相談によっては服用されるといいでしょう。
そして、何より最も大切なのは、自己管理です。インスリン抵抗性は、遺伝的なものだといわれているので本質的な改善は難しいのですが、自己管理によりかなりよくなります。
それには、第一に運動です。耐糖能異常の原因として、筋肉に血行障害があって糖の利用が十分にできないためであろうという考え方があります。
筋肉内の毛細血管は、膨大な量なので運動をしてこれらの血行を促進すると、インスリン抵抗性も改善されます。
疫学調査(病気の起こり方を、人間の集団を対象に、統計的方法を使って明らかにする調査) によると、週に2000~3000kcalの運動をすると、動脈硬化の発生率がへることが確かめられています。これの最も簡単な方法は、日に1000~20000歩を少し早足で歩くことです。また、バラエティに富んだ食事も欠かせません。「あれは食べてはいけない、これも…」などと考えるより、食品数の豊かさが大事です。そのうえで体重をふやさないようにすることが最も重要です。お酒は適度ならかまいません。それにより、将来、本格的な糖尿病になるリスクを、確実にへらすことができるでしょう。