血管の研究

肥満(特にお腹が出ている)は、動脈硬化の進行が早い

体内で起きる危険な症状ワースト4

血管の老化ともいわれる動脈硬化が進むと動脈が細くなって血流が悪化し、死にまで至る病気を引き起こします。
この動脈硬化を進行させる危険因子として、以前から次の4つの病気や病的状態が知られており、これらの症状が、同じ人に集中しやすいこともわかっていました。

  1. 高脂血症
  2. 耐糖機能異常
  3. 高血圧
  4. 腹部肥満

1のの高脂血症とは、血液中の中性脂肪(トリグリセライド、体内の最もありふれたタイ
プの脂肪) やコレステロールが異常に多くなる病気をいいます。
2のの耐糖能異常とは、体内の糖を処理する能力に異常がある状態、端的にいうと、糖尿
病の疑いがある状態のことです。

3の高血圧は、血液が血管に及ぼす圧力が高すぎる状態。

4のの腹部肥満は、へそを中心としたおなかの中央部分がぱんぱんに張ったように出てくる肥満です。

アメリカの医師は、これらの症状を併せ持っていると、死を招く心臓病を起こす危険性が極めて高いとして、これらの4症状を併発している状態を「死の四重奏」と名付けました。そして、カプランは、同じ個人にこの四症状が集中する要因として、「インスリン抵抗性」というものに焦点を当てたのです。
インスリンは、血液中のブドウ糖を細胞の中に取り込む働きをするホルモンです。血糖値を下げるホルモンといういい方もできます。人間の体は、細胞の中でブドウ糖を燃やしてエネルギーにしていますが、その過程でインスリンはとても重要な働きをしているのです。
ところが、なんらかのことが原因で体の中にインスリンの活動に抵抗する力が高まって、インスリンの働きが悪くなることがあります。このインスリンの働き…ば言い換えればインスリンの効き目を悪くする力を、インスリン抵抗性といいます。インスリン抵抗性が増大すると、インスリンがあっても血液中のブドウ糖が細胞中に取り込まれにくくなります。
つまり、先ほど述べた死の四重奏のうちの2の、糖の処理が悪くなる「耐糖能異常」の状態を来します。
そのため、血糖値が上がります。また、インスリン抵抗性が増大すると、結果として、脂肪の分解がうまくいかなくなり、脂肪の合成が高まります。そのため死の四重奏のうちの1 の「高脂血症」が起こります。また、インスリン抵抗性が増大すると、ある程度インスリンがあっても相対的なインスリン不足が起こり、その不足を補おうと体が大量のインスリンを分泌します。その結果、血液中のインスリンがふえます。この高インスリン状態が、死の四重奏のうちの3 の「高血圧」を招きます。

つまり、死の四重奏のうち、4の「腹部肥満」を除く3つの症状は、インスリン抵抗性が原因だと説明できるのです。
では、腹部肥満はいったいどう位置づけられるのでしょうか。現在では、さらにインスリン抵抗性についての研究が進んでいます。そして、インスリン抵抗性の根本原因は腹部肥満であるという考え方になりつつあるのです。

内臓にたまった脂肪が諸悪の根源

腹部肥満は、上半身肥満、リンゴ型肥満ともいわれます。おなかに肉がつくといっても、皮膚と筋肉の間に皮下脂肪がたまる肥満とは違い、腸と腸の間にある腸間膜という部分に脂肪がたまって、腹の奥のほうからへその周囲を膨らませるのです。
腸間膜にたまった脂肪を内臓脂肪と呼びます。内臓脂肪は、分解されると脂肪酸という物質になります。
この脂肪酸が血液によって肝臓に運ばれると、さまざまな異常を引き起こします。その1つが「インスリン抵抗性」なのです。また、肝臓は脂肪をつくる臓器ですから、肝臓に脂肪酸が運ばれてくると徹底的に脂肪がつくられます。
その結果、脂肪が血液中にふえたり肝臓にたまったりして、高脂血症や脂肪肝が起こりやすくなります。ところで、注意したいのが、内臓に脂肪がたまってもへその周囲が膨らまない場合です。
このような肥満を「隠れ肥満」と呼びますが、こうした状態でも動脈硬化が起こる素地は十分にあるのです。ですから、ふだんの心構えが重要になります。まず第一に、常に体重を測っていて、いつもの体重をオーバーしたら注意が必要です。

内臓脂肪の量は運動の量で決まる

さて、この腹部肥満は、どんな人に起こりやすく、どのようにすれば避けることができるのでしょうか。
腹部肥満は運動量に関係があるので、日ごろの運動量によって内臓脂肪の有無を推測することができます。
運動をたくさんする人は内臓脂肪が極めて少なく、運動しない人は多いことがわかっているのです。
腹部肥満になりやすいかどうかは、その人のカロリー摂取量とは、ほとんど関係がありません。食事の量を控えていても、運動しない人は内臓脂肪が多いのです。
一日中家にいる主婦や机に向かっている会社員は内臓脂肪がたまっている可能性が高いので、運動するよう心がけましょう。
内臓脂肪をへらすには、1日に300kcalを消費する運動量が目安になります。これは歩く場合12000歩、ジョギングで1日2~3kmです。

糖尿病予備軍の動脈硬化の進行が早い

日本人の25% の人の血糖値が危険信号

一般的な血液検査の検査項目の一つに、血糖値(血液中のブドウ糖の値) があります。110mg/dl下が正常値で、空腹時で140mg/dl以上の場合は、明らかな糖尿病と診断されますが、問題は110~1400mg/dlの場合です。この数値に該当する人は、まず確実に糖尿病予備軍であり、動脈硬化が速く進みやすいことがわかっています。
そして現在、日本人の25、およそ4分の1 ほどは、糖尿病および予備軍であるだろうと推測されています。それでは、血糖値が110~1400mg/dlの場合、なぜ動脈硬化が進みやすくなるのかです。

糖分は体にとって不可欠な三大栄養素の一つです。この糖分を細胞の中に栄養として取り込むときに必要なのが、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンです。
このインスリンが不足すると糖分は細胞内に取り込まれず、血液内にたまってしまいます。
そのため、インスリンとは、血糖値を下げるホルモンということもできるでしょう。ところがなんらかの理由で、インスリンは分泌されているのに、それが効かないために糖分が細胞に取り込まれず、血液中を巡ってしまうということがあります。
このようにインスリンの効き目を悪くする体の傾向を「インスリン抵抗性」といいます。そして、インスリン抵抗性がある状態を「耐糖能異常」といいます。この耐糖能異常の状態になると、血液内に糖分が正常値以上にあるようになります。
すると、この状態を解消しようとする働きによって、血糖値を下げるインスリンが通常以上に分泌されます。「糖尿病予備軍」である血糖値110~1400mg/dlのときは、「明らかな糖尿病」と診断されるときよりもずっとさかんにインスリンが分泌されています。ところで、糖尿病には、

  1. インスリンが不足しているために起こるインスリン依存型
  2. インスリンは豊富にあるのに糖分を細胞中に取り込むことができないで起こる非依存型

の2種類があります。そして、多くの糖尿病は後者の非依存型なのです。

悪いことが次々に起こる

インスリン抵抗性、つまりインスリンが効きにくい傾向があると、正常より多くのインスリンが分泌されますが、インスリンが多すぎるとやっかいなことが起こります。
1つには、血圧が上昇します。これは、インスリンが腎臓に働いて、塩分を排泄しないようにするからです。
実際、最近では、インスリンが多すぎるために起こる高血圧のかたが増えています。
次に、インスリンがたくさん分泌されると、自動的に肝臓は中性脂肪(体の中で最もありふれたタイプの脂肪で代表は皮下脂肪)を作ろうとする傾向があり、逆に善玉コレステロール(動脈硬化を防ぐ働きをするコレステロール) が減少してしまいます。
そして、体内での脂肪の分解がうまくいかなくなり、脂肪の合成が高まるばかりで、その結果、高脂血症(血液中に脂肪が著しく増えてた状態) が起こります。
さらに、血液中にふえた糖分は、たんばく質にくっつく性質があり、糖化たんばくと呼ばれるものを作ります。この糖化たんばくは、血管に障害を与え、病気を引き起こすのではないかと考えられています。
このようなことから、インスリンの分泌が多すぎると、確実に動脈硬化は進行してしまうのです。
動脈硬化の危険因子(病気を起こす要因となるもの) は7つありますが、血糖値が高いこともその1つで、血糖値が低いかたに比べて危険は3倍高まるといわれています。

1日1万歩以上歩く

では、検診などで「血糖値が110~1400mg/dlの範囲にあり、まだ明らかな糖尿病ではない」と診断されたら、どうしたらいいのでしょうか。
「糖尿病とはいえない」といわれれば安心されるでしょうが、実はこの状態に至るまでに10年以上という長い病歴があり、すでに健康とはいえない状態となっているのです。
そして、糖尿病とはいえなくとも、高血糖症(血液中に糖分が著しくふえた状態) や高脂血症、高尿酸症(血液中に老廃物の尿酸が著しくふえた状態) などは無自覚に進行します。そして、ある日突然、目が見えなくなって眼科に行き、そこで初めて糖尿病と診断されるかたも多いのです。
血糖値が110~1400mg/dlと診断された場合には、症状はなくても病院を受診すべきです。
最近は、インスリン抵抗性を改善する薬剤や、インスリン非依存型の糖尿病の進行をおさえる薬剤、高脂血症を改善する薬剤もいいものがありますので、医師との相談によっては服用されるといいでしょう。
そして、何より最も大切なのは、自己管理です。インスリン抵抗性は、遺伝的なものだといわれているので本質的な改善は難しいのですが、自己管理によりかなりよくなります。
それには、第一に運動です。耐糖能異常の原因として、筋肉に血行障害があって糖の利用が十分にできないためであろうという考え方があります。
筋肉内の毛細血管は、膨大な量なので運動をしてこれらの血行を促進すると、インスリン抵抗性も改善されます。

疫学調査(病気の起こり方を、人間の集団を対象に、統計的方法を使って明らかにする調査) によると、週に2000~3000kcalの運動をすると、動脈硬化の発生率がへることが確かめられています。これの最も簡単な方法は、日に1000~20000歩を少し早足で歩くことです。また、バラエティに富んだ食事も欠かせません。「あれは食べてはいけない、これも…」などと考えるより、食品数の豊かさが大事です。そのうえで体重をふやさないようにすることが最も重要です。お酒は適度ならかまいません。それにより、将来、本格的な糖尿病になるリスクを、確実にへらすことができるでしょう。

脳出血の前ぶれ

血管がか詰まる「脳卒中」が急増

脳卒中は、脳の血管が「破れる」か「詰まる」かによって起こります。どこの医療機関でも脳卒中の患者さんは急増しています。

  1. 脳の血管が破れるタイプには、「脳出血」と「クモ膜下出血」があります。脳出血は高血圧のために細い血管にコプのようなものができ、それが破裂して出血するものです。クモ膜下出血のコプは、血圧とは関係なく、脳の表面を覆う膜の下にできて、出血します。
  2. 脳の血管が詰まるタイプが脳梗塞と呼ばれるもので、これには「脳血栓」と「脳塞栓」があります。
    脳血栓は、動脈硬化のために狭くなった脳の血管の中に血液の塊(血栓) が付いて、やがては血管が詰まるものです。脳塞栓は心臓などでできた血栓が脳の血管につまるものです。

かつては仙脳出血が最も多かったのですが、栄養状態の改善で血管壁が丈夫になり、減塩など高血圧を改善する方法が普及されるにつれて、脳出血はへっています。しかしながら、脳棟塞のほうは著しくふえています。

本格的な発作は春、前触れは秋から冬

一般に「脳卒中は冬に多い」と信じられているようです。血圧が高いかたは冬に不安を感じているかもしれませんが、実際には冬だから多発するというものではありません。
脳卒中が冬に多発するといわれた理由を推測すれば温度と湿度の変化、つまり、寒冷と乾燥があげられるでしょう。
たしかに脳卒中による死亡率は東高西低で、寒冷地に多いようです。しかし、ワースト1は北関東で、北海道のほうが下回ります。
現在は、生活環境の改善により四季による体感温度差や温度差がはへっているといえます。
実際の医療現場での実感は3~5月が多いと言います。ただし、脳卒中を起こす前に多くの人は、「前触れ」の発作を体験します。
そして、本格的な脳卒中は、それから3~6ヶ月以内に起きることが多いのです。
つまり、春に本格的な脳卒中が起こりやすいということは、秋~冬にかけて前触れの発作が起こりやすくなっていると考えられます。

手足のしびれ、めまいも危険なシグナル

よくある前触れの症状は、突然、ぽろりと湯飲みやペンなどを落としてしまうものです。
他にも手足がしびれて動かなくなってしまったり、痙攣する、めまいがする、話がしにくい、ろれつがまわらない、目の焦点が合わなくなる、片方の目だけ見えなくなる、視野が狭くなる、耳が聞こえなくなる、瞬間記憶が飛ぶ、よだれが出る…などがあります。

このような症状は、数分から数時間でおさまるものと、1~20日でおさまるものがありますが、いずれにしろ自然に消えてしまいます。このような前触れは、血の塊(血栓) が一時的に脳の血管を詰まらせてしまうために起こります。そして、血栓が小さかったり、血管内の狭まりがそれほどでもなかったりするために、血栓は自然に溶けて再び血液が流れるようになり、それと同時に症状も消えてしまいます。
とはいえ、一時的にでも症状が出るということは、いつ本格的な脳卒中が来てもおかしくない体の状態にあるということですから、前触れを見逃してはなりません。
「たかが一度、湯飲みを落としたぐらい」などと軽んじると取り返しのつかないことになりかねません。また、前触れをくり返して起こした脳卒中ほど重いので、前触れがあったらただちに医師のもとへ出向いて治療を受けてください。それにより、本格的な脳卒中の発生の5~6割が未然に防げます。