血管の研究

脳出血の前ぶれ

血管がか詰まる「脳卒中」が急増

脳卒中は、脳の血管が「破れる」か「詰まる」かによって起こります。どこの医療機関でも脳卒中の患者さんは急増しています。

  1. 脳の血管が破れるタイプには、「脳出血」と「クモ膜下出血」があります。脳出血は高血圧のために細い血管にコプのようなものができ、それが破裂して出血するものです。クモ膜下出血のコプは、血圧とは関係なく、脳の表面を覆う膜の下にできて、出血します。
  2. 脳の血管が詰まるタイプが脳梗塞と呼ばれるもので、これには「脳血栓」と「脳塞栓」があります。
    脳血栓は、動脈硬化のために狭くなった脳の血管の中に血液の塊(血栓) が付いて、やがては血管が詰まるものです。脳塞栓は心臓などでできた血栓が脳の血管につまるものです。

かつては仙脳出血が最も多かったのですが、栄養状態の改善で血管壁が丈夫になり、減塩など高血圧を改善する方法が普及されるにつれて、脳出血はへっています。しかしながら、脳棟塞のほうは著しくふえています。

本格的な発作は春、前触れは秋から冬

一般に「脳卒中は冬に多い」と信じられているようです。血圧が高いかたは冬に不安を感じているかもしれませんが、実際には冬だから多発するというものではありません。
脳卒中が冬に多発するといわれた理由を推測すれば温度と湿度の変化、つまり、寒冷と乾燥があげられるでしょう。
たしかに脳卒中による死亡率は東高西低で、寒冷地に多いようです。しかし、ワースト1は北関東で、北海道のほうが下回ります。
現在は、生活環境の改善により四季による体感温度差や温度差がはへっているといえます。
実際の医療現場での実感は3~5月が多いと言います。ただし、脳卒中を起こす前に多くの人は、「前触れ」の発作を体験します。
そして、本格的な脳卒中は、それから3~6ヶ月以内に起きることが多いのです。
つまり、春に本格的な脳卒中が起こりやすいということは、秋~冬にかけて前触れの発作が起こりやすくなっていると考えられます。

手足のしびれ、めまいも危険なシグナル

よくある前触れの症状は、突然、ぽろりと湯飲みやペンなどを落としてしまうものです。
他にも手足がしびれて動かなくなってしまったり、痙攣する、めまいがする、話がしにくい、ろれつがまわらない、目の焦点が合わなくなる、片方の目だけ見えなくなる、視野が狭くなる、耳が聞こえなくなる、瞬間記憶が飛ぶ、よだれが出る…などがあります。

このような症状は、数分から数時間でおさまるものと、1~20日でおさまるものがありますが、いずれにしろ自然に消えてしまいます。このような前触れは、血の塊(血栓) が一時的に脳の血管を詰まらせてしまうために起こります。そして、血栓が小さかったり、血管内の狭まりがそれほどでもなかったりするために、血栓は自然に溶けて再び血液が流れるようになり、それと同時に症状も消えてしまいます。
とはいえ、一時的にでも症状が出るということは、いつ本格的な脳卒中が来てもおかしくない体の状態にあるということですから、前触れを見逃してはなりません。
「たかが一度、湯飲みを落としたぐらい」などと軽んじると取り返しのつかないことになりかねません。また、前触れをくり返して起こした脳卒中ほど重いので、前触れがあったらただちに医師のもとへ出向いて治療を受けてください。それにより、本格的な脳卒中の発生の5~6割が未然に防げます。

若くても突然、血管がつまる新しいタイプ

急増している欧米型食習慣

食生活の欧米化により、動脈硬化のあり方も同じように変化しています。これまで一般的には、動脈硬化は徐々に進行し、高齢になって初めて心臓病や脳卒中(脳の血管が詰まったり破れたりする病気) を引き起こす、と考えられてきました。
つまり、血管が正常の80~90% も狭くなった段階でこういう事態が引き起こされる、と考えられてきたわけです。
もちろん、それで間違いないのですが、日本人の食生活が低カロリー・低脂肪から高カロリー・高脂肪と急速に変化してきた結果、30代、40代でも心筋梗塞(心臓の筋肉に血液を供給する冠動脈が詰まる病気) や脳梗塞(脳の血管が詰まって起こる脳卒中) を引き起こす、欧米型の動脈硬化が急激にふえてきています。欧米型の動脈硬化の怖いところは、血管が30~40% しか狭くなっていなくても突然起こることです。
欧米型の動脈硬化が起こるしくみは、基本的には従来型の動脈硬化と同じです。ただし、違うのは次のような点です。

  1. 高脂血症(血液中に脂肪が著しくふえた状態)
  2. 耐糖能異常(糖を調整する能力「耐糖能」に異常が現れた糖尿病の直前の段階)
  3. 高血圧
  4. 肥満

これら4つの危険因子が、従来型の場合は単独で出てくることが多かったのですが、欧米型の場合は複数重なって起こることが多いのが特徴です。
欧米型の動脈硬化が起こるしくみは、血管の内腔(内側の血液の通り道) と血管壁とは、内皮細胞という組織で隔てられています。
この内皮細胞が動脈硬化の危険因子の影響を受けると、さまざまな物質を作るようになります。代表的なものは接着分子という物質です。
接着分子は、内皮細胞の上で血液中の白血球(組織内の異物を食べる血液成分の一種)をさかんに取り込むようになります。すると、取り込まれた白血球の一部が内皮細胞のすき間に入り込んでいきます。そして、しだいにマクロファージ(免疫細胞) へと変化していきます。これまでは

  • マクロファージが悪玉コレステロールのLDLをさかんに取り込む
  • その結果、処理能力の限界を越えて泡沫細胞という細胞を発生させる
  • 泡沫細胞が動脈硬化の初期の病変であるアテローム( 粥状物)になる

と解釈されてきました。
ところが、「マクロファージが取り込むのは、LDL だけでない。レムナントという、LDLに変化する一歩手前のコレステロールも取り込む。これを取り込むことのほうに問題がある」ということが最近わかってきました。

血管内のカスが破れ血栓を作る

従来の食生活でも、動脈硬化の主な原因はLDLにあったわけで、今もこの点は変わりません。それでも昔に比べると今のほうが、血管が少し狭くなっても心臓病を起こすような動脈硬化が起こります。
これは、高カロリー・高脂肪の食生活によって、マクロファージがレムナントを取り込むようになったことが主な原因だということもわかってきました。

マクロファージは、LDLが酸化しないと取り込めないのですが、レムナントは酸化しないでも取り込まれます。そのため、どんどん取り込まれ、プラークという物質が作られます。プラークは、いわば血管内のカスで、もともと非常にやわらかく不安定ですが、これを保護するかのように、固い動脈硬化が形成されていくのです。ところが、プラークが30% 、40% と血管の内腔を狭くすると、形成される時間が急激でまだホカホカしていてやわらかいせいもあって、非常に破れやすくなっています。
プラークが破れるとけがをしたときと同じように、血液凝固作用で血栓(血の塊) が作られます。血栓がしだいに大きくなると、血流を損ない、心筋梗塞や狭心症を引き起こすのです。従来型の動脈硬化は、アテローム形成にそれなりの時間が必要で、その間に安定化し、かつ血管の狭まり具合も多かったため、高齢者の病気とされてきました。
しかし、現在では心筋梗塞や狭心症、突然死などの虚血性心疾患の半数(75% という報告もあります) がプラークの破裂によると考えられています。最近のプラークは加齢に関係なく、急速に作られ、わずかな血管の狭まりでも起こりますから、若いからといってけっして安心はできないのです。
しかも、何の前触れもなく突発的に起こりますから、やっかいです。特に動脈硬化の危険因子を持つ人は注意が必要です。それにはなんといっても食事の改善が大切です。まず、食事の絶対量をへらしながら、動物性脂肪を極力避けるようにします。

当然、適度な運動も必須で、散歩などのストレスにならないような軽度の運動から始めることをお勧めします。焦らずに少しずつ運動量をあげていくことがポイントです。
なお、動脈硬化の4つの危険因子のうち一つでも当てはまる人は、食事面、運動面に気をつかいながらも、積極的に医師の処方する薬を服用してみてはいかがでしょうか。