血管の健康に大きく影響する一酸化窒素
心臓病の専門である循環器の医師の多くは、ニトログリセリンという成分からなる錠剤をよく使用しています。このニトログリセリンは、狭心症の発作に対しての特効薬として長年使われています。
狭心症とは、心臓の筋肉に血液を送る冠状動脈に起こった動脈硬化によって心臓の筋肉への血流量が減り、心臓の壁を構成している筋肉がエネルギー不足になるやがて胸が痛い、締めつけられるといった発作が起こる病気です。
そこでニトログリセリンを口に含ませます。体内に入ったニトログリセリンは、数段階の過程を経て一酸化窒素を生み出します。
動脈硬化も血栓も防ぐ一酸化窒素
一酸化窒素は、体のさまざまな細胞で作られています。血管についていえば、動脈の最も内側の内皮細胞という細胞でよく作られ、血液中に放出されています。
そもそも人間の動脈は、外側から順に外膜、中膜、内膜の三層構造になっています。
外膜は、非常に丈夫な繊維状の組織から成り立っていて、血管の強度を保っています。
中膜には、血管平滑筋という筋肉のようなものがあります。この血管平滑筋が収縮と弛緩をくり返すことで、血液の通り道の幅が変化し、血液の流れが調節されています。
内膜は、血液と接する内皮細胞とその外側にある組織から成り立っています。この内皮細胞はさまざまな物質を作って血液中に放出しています。そうした数々の物質の中の一つが、一酸化窒素なのです。一酸化窒素は、内皮細胞の中にあるアルギニンというアミノ酸(たんばく質の構成成分の一種)をもとにして作られています。そしてある種の物質や血液の刺激を受けたりすると、内皮細胞から放出されます。
こうして放出される一酸化窒素が血管の健康に大きく役立っているいるわけです。
まず一酸化窒素には、動脈硬化を防ぐ働きがあります。
動脈硬化になると、中膜にある血管平滑筋が増えたり収縮したりします。
すると、血液の通り道はどんどん狭くなり、血流は低下していきます。
しかし、一酸化窒素には、血管平滑筋がふえるのをおさえる働きがあります。
また、収縮した血管平滑筋を弛緩させる働きもあります。さらに、血管の中で血栓(血の塊) ができるのを防ぐ働きもありますし、血管を収縮させて血圧を上げる物質の働きを阻害する働きもあります。ですから、血管の詰まりを防ぐには、一酸化窒素の存在が不可欠なのです。
ただ、年をとるとともに、一酸化窒素を作り血液中に放出している内皮紳胞は死に、数が少なくなります。そして今のところ、残念ながら内皮細胞を再生させたりふやしたりする方法は、わかっていません。しかし、不足した一酸化窒素を補う方法はあります。
魚の小さい卵を夕食に食べる
一酸化窒素は、アルギニンという物質をもとにして作られています。このアルギニンを多く含んでいる食べ物をうまく摂るようにすれば一酸化窒素を補給することができます。
アルギニンを効率的にとるには、イクラやスジコ、タラコ、カズノコなど魚の小さい卵が集まった食べ物を摂ります。
卵が寄せ集まったような食べ物こそ、たくさんの細胞核が集まっていて、非常に効率的にアルギニンを体内に摂り入れることができるわけです
ただ、コレステロール値が高い人は、これらの食べ物を口に入れられるのはNGです。そうした場合は、海藻が代用できます。海藻全般も一酸化窒素を増やす食べ物といえます。
海藻にはアスパラギン酸という成分が含まれています。このアスパラギン酸は、一酸化窒素のもととなるアルギン酸が体内でできるのを助けます。
さらに、体内にアスパラギン酸があると、いったん一酸化窒素を作り出して分解されたアルギニンを再び分解前の構造に戻すことが出来ます。
簡単にいえばアルギニンから何回でも一酸化窒素を作り出すことが可能になるというわけです。
また、魚の卵や海藻は夕食時に食べるのがおすすめです。
午前6~8時という起床の時間帯が血管の収縮が多発するためです。
眠っているときは副交感神経(心臓の働きをおさえたり消化器の働きを促進したりする神経) が優位な状態で、朝起きると交感神経(心臓の働きを促進したり消化器の働きをおさえたりする神経) が優位な状態に移行していきます。この移行がうまくいかないと、血管が収縮してしまう可能性が高まってしまいます。ですから、夕食にアルギニンやアスパラギン酸を含んだ食べ物を食べておけば、起床時に起きやすい、脳梗塞、心筋梗塞などを防ぐことにつながります。