bloodvessel

脳や心臓を破壊する血管の詰まりは朝の時間に多発

血圧の変動は24時間のリズムがある

血圧は、1日のうちに一定のリズムを刻んでいます。夜間に眠っている間が最も低く、朝起きると急激に上がります。自律神経とも深く関わっています。
日中は活動の程度に応じて変動します。そして夜に向かってだんだん低下していきます。体がそのときそのときに最も適した状態になるように調節されているのです。
血圧の高い人も、普通の人よりも値は高いですが、昼間は高く夜は低いというカープを描くのが一般的です。
ところが、このようなパターンに属さない高血圧の患者がいることが、最近になってわかってきました。この患者たちは、次の二つのタイプに分けられます。

一つ目のタイプが、夜間の血圧があまりに下がらない、あるいは逆に夜間に血圧が上昇する人です。これを「ノン・ディッパー」といいます。
「ディップ」は、「くぼみ」という意味ですから「血圧の下がり具合が少ない人」ということになります。

ノン・デディッパーは、単に血圧が高いだけでなく、ほかの臓器に障害が出ている人や、重症の高血圧の患者に多くみられます。お年寄りにもこのタイプが目立ちます。
一見健康でも、目に見えないところで臓器の障害が進んでいたり、機能が低下している場合が多いためと考えられます。

さて次に、血圧の変動のリズムが正常ではない第二のタイプにです。このタイプは、夜に血圧は下がるけれども、下がり具合があまりに急激、または大幅で、昼夜の落差が大きい人です。
このタイプを「ディッパー」といいますが、昼夜だけでなく、もっと短い時間で血圧を見ても、上下の変動が激しいのが特徴です。このような人は高血圧による病気の中でも、特に脳の血管障害が進んでいる可能性があります。

タイプにより治療が異なる

ノン・ディッパーやディッパーの人は、普通の高血圧の人よりもリスクが高いので、注意が必要です。
第一のタイプ、つまり、夜間も血圧が下がらない、もしくは上がるノン・ディッパーの人は、脳卒中や心臓病になりやすい、あるいはすでに進行している人と考えられます。
というのも、動脈硬化が進んで、血管のいたるところが狭まっていると、血管が狭くなった先の部分にまで血液を行き渡らせるには、血圧が高いほうが都合がいいわけです。だから夜間も血圧を高くして、循環を維持するように体のシステム自体が調節している可能性があるのです。
このように、たとえ血液の循環を維持するために血圧が上がっているとしても、放置しておくと高血圧によって臓器の障害がますます悪化してしまうので、血圧を下げる治療をしなければなりません。
ただし、どの程度下げるかが問題で、急に、あるいは大幅に血圧を下げると、体の機能をうまく調節できなくなる恐れがあります。
ですから、現在の機能を損なうことなく、なおかつ将来にわたって病気の発症を抑制していくためには、長い時間をかけて少しずつ血圧を下げていくような治療が大切です。次に第二のタイプ、つまり、夜間と昼間の血圧の落差が大きいディッパーの人の注意すべき点です。このタイプの人は、血圧が変動しやすいということ自体が、脳の血管障害を進行させている可能性があります。
そもそも血圧は、高くても低くても安定しているのが望ましいのです。急に血圧が下がると、血液がきちんと送り込まれなくなって、組織に障害を与える危険性があります。
急に血圧が上がると、血管に大きな負担がかかり、血栓(血の塊) ができやすくなるからです。
デイツパーの人も、昼間の血圧は高いわけですから、降圧剤などで血圧を下げるようにしなければいけません。ところが、注意しなくてはいけないのは、降圧剤の服用によって、血圧の変動がより大きくなる場合があることです。
特に、昼間の血圧だけを目安に降圧剤を服用していると、深夜に血圧が下がりすぎることがあります。このとき、脳の血管に狭くなったところがあると、睡眠中は水分の補給が途絶えているために血液が濃くなり、流れにくくなっていることも手伝い、脳梗塞(脳の血管が詰まって起こる脳卒中) を起こしてしまう危険があります。
したがってディッパーの人には、急に血圧を下げるようなタイプの効く時間が短い降圧剤は、血圧の変動を大きくしてしまうので、望ましくありません。一日に一回だけ飲めばいいような、長く穏やかに作用する薬が最適です。

どのタイプも朝~正午が危険度が高い

最初に「血圧は、昼間は高くて、夜は低い、という一日のリズムがある」といいましたが、これに関係して、すべてのタイプの高血圧患者に共通して注意が必要な「危険な時間帯」があります。これは、朝~午前中にかけてです。
朝方は、血圧が上昇しているだけでなく、脈拍の数やホルモンの分泌が増え、血液の固まりやすさも増します。
さらに前夜から水分補給をしていないため、血液が濃くなっていて流れにくい状態でもあります。さまざまな方面から血液が詰まりやすい状態になっているということです。

このとき、もし血管に傷などがあると、血栓ができやすく、出血が起こりやすいのです。しかも降圧剤を服用している人にとっては、朝起きてから薬を飲むまでの間は、薬の効き目が最も弱くなっているときなので、血圧がより高くなりがちです。実際、
心臓の血管が詰まって起こる心筋梗塞、狭心症、脳の血管が詰まったり出血したりして起こる脳梗塞、脳出血などは、明け方から起床後3~4時間に多く起きています。これを「モーニング・サージ」(朝の一撃)と呼ばれています。
モーニングサージを防止するには、朝方の血圧を調節することに加えて、「就寝前や起床時に活動をはじめる前に水分をしっかいr補給して血液の流れをよくしておくことが重要です。

脳の血管の隠れた詰まりや動脈硬化の度合いが わかる「きらきら星の手の動作

心配な人は自分でチェックできる

動脈に弾性がなくなり、内壁が厚く固くなって、血の通り道が狭くなることを「動脈硬化」といいます。
血管は栄養や酸素など体に必要なものを運搬しているため、この動脈硬化が脳内で進むと、さまざまな脳血管障害が引き起こされます。
脳の小さな血管が切れてしまうと脳出血、脳の血管が詰まると脳梗塞になります。
これらの病気を総称して、一般に脳卒中と分類しています。
こうした病気を引き起こす脳の動脈硬化や脳血管障害の有無や程度を自分で簡単にチェックできる方法があります。それは手首を裏表に回転させ、スムーズに動くかどうかを見るというテストです。

まず、両手のひじを軽く曲げ、手のひらを前に向けて自然に広げます。そして左右の手首を内側に同時に回転させ、手のひらを手前に向けます。
それから、左右の手首を外側に同時に回転させ、手のひらを再び前に向けます。この動作を、約20秒間くり返します。速さは無理のないスピードでかまいません。
手のひらを返す動作を続けるこの動きは、ちょうど子どもがお遊戯で習う「きらきら星」の手の動作に似ています。そして、この間、左右の手のリズムが乱れずにスムーズに回転できれば問題ありません。ですが、左右どちらか、もしくは両方の手の動きが乱れてしまったり、動きがスムーズでない場合は、脳血管障害が進行している可能性があります。

もうひとつは、「指折り数え運動」です。両手の指をスムーズに折り曲げることができるかどうかを見るというものです。
両手のひらを上に向け、数を数えるように、親指、人差し指、中指、薬指、小指の順番で指を折り曲げ、こぶしを握ったグーの状態にします。
次に、小指、薬指、中指、人差し指、親指の順番で手を開きます。この動作を素早く10回程度くり返します。この運動がスムーズにできれば問題ないのですが、左右どちらか、もしくは両方の手の動きがぎこちなかったり、違和感を感じたりしたら、脳血管障害が進んでいる危険性があります。

脳の血管の状態を反映する手の動き

「きらきら星運動」や「指折り数え運動」のように、手に細かい動きを要求する運動は、脳血管の状態を反映しやすいのです。
自覚症状のない小さな脳梗塞が起こって脳の血管の血行が途絶え、脳神経の一部が死んでいたりすると、脳からの指令がスムーズに手に伝わらず、手の動きはぎこちなくなります。
これらの運動をして、右手の動きがおかしいときは、左脳の血管に、また、左手の動きがおかしいときは、右脳の血管になんらかの異常があると考えられます。
また、両方がおかしいときは、頸椎の異常や変形性頸椎症などがある可能性もあります。
この2つの動作は脳血管障害を発見するだけでなく、動脈硬化の予防や進行防止にもとても有効です。
というのも手を動かすことによって脳に刺激を与えると脳の血流がよくない、脳神経の働きも改善されます。
さらに、血流がよくなり、脳細胞に栄養が行き渡るようになると、脳の活性化にもつながります。
また、これらの運動がうまくできなかった人は、脳血管の障害がかなり進んでいる疑いがあります。ぜひ、病院で検査を受けてください。

40歳以上の肥満者は動脈硬化の危険大

動脈硬化は特別な病気ではありません。平均的な生活をしている日本人なら日頃の食生活や運動不足からコレステロールや中性脂肪が血管にたまり、40歳を過ぎると間違いなく動脈硬化がはじまっていると考えられます。
特に太りぎみの人は動脈硬化がより進んでいると考えて間違いないのです。

手の運動で異常がなくても、動脈硬化が進んでいる恐れはあります。実をいうと、動脈硬化や動脈硬化によって引き起こされる病気を防ぐには、手の運動に異常が現れるよりもっと早い時期に動脈硬化を判断する必要があるのです。その目安となるのが肥満です。
肥満かどうかは、体脂肪率の割合を見ればわかります。

肥満かどうかは、体脂肪率(体に蓄えられている脂肪の割合) をみればわかります。体脂肪率は測定器で簡単に測ることができますが、測定器がない場合でも、BMI(BODY MASS INDEX)の値を出せばわかります。
BMI は体重(kg) を身長(m)の二乗で割った数値です。BMIの平均値は21~22で、これが25以上だと肥満、30以上だと高度肥満です。BMIが25を超えていたら動脈硬化になる危険性が高いので、カロリーや脂肪の摂取量をへらしたり、運動をしたりして、肥満を解消するよう意識をかえていかなければなりません。
コレステロールを下げるためにトクホのイサゴールなどの活用もおすすめです。

肥満(特にお腹が出ている)は、動脈硬化の進行が早い

体内で起きる危険な症状ワースト4

血管の老化ともいわれる動脈硬化が進むと動脈が細くなって血流が悪化し、死にまで至る病気を引き起こします。
この動脈硬化を進行させる危険因子として、以前から次の4つの病気や病的状態が知られており、これらの症状が、同じ人に集中しやすいこともわかっていました。

  1. 高脂血症
  2. 耐糖機能異常
  3. 高血圧
  4. 腹部肥満

1のの高脂血症とは、血液中の中性脂肪(トリグリセライド、体内の最もありふれたタイ
プの脂肪) やコレステロールが異常に多くなる病気をいいます。
2のの耐糖能異常とは、体内の糖を処理する能力に異常がある状態、端的にいうと、糖尿
病の疑いがある状態のことです。

3の高血圧は、血液が血管に及ぼす圧力が高すぎる状態。

4のの腹部肥満は、へそを中心としたおなかの中央部分がぱんぱんに張ったように出てくる肥満です。

アメリカの医師は、これらの症状を併せ持っていると、死を招く心臓病を起こす危険性が極めて高いとして、これらの4症状を併発している状態を「死の四重奏」と名付けました。そして、カプランは、同じ個人にこの四症状が集中する要因として、「インスリン抵抗性」というものに焦点を当てたのです。
インスリンは、血液中のブドウ糖を細胞の中に取り込む働きをするホルモンです。血糖値を下げるホルモンといういい方もできます。人間の体は、細胞の中でブドウ糖を燃やしてエネルギーにしていますが、その過程でインスリンはとても重要な働きをしているのです。
ところが、なんらかのことが原因で体の中にインスリンの活動に抵抗する力が高まって、インスリンの働きが悪くなることがあります。このインスリンの働き…ば言い換えればインスリンの効き目を悪くする力を、インスリン抵抗性といいます。インスリン抵抗性が増大すると、インスリンがあっても血液中のブドウ糖が細胞中に取り込まれにくくなります。
つまり、先ほど述べた死の四重奏のうちの2の、糖の処理が悪くなる「耐糖能異常」の状態を来します。
そのため、血糖値が上がります。また、インスリン抵抗性が増大すると、結果として、脂肪の分解がうまくいかなくなり、脂肪の合成が高まります。そのため死の四重奏のうちの1 の「高脂血症」が起こります。また、インスリン抵抗性が増大すると、ある程度インスリンがあっても相対的なインスリン不足が起こり、その不足を補おうと体が大量のインスリンを分泌します。その結果、血液中のインスリンがふえます。この高インスリン状態が、死の四重奏のうちの3 の「高血圧」を招きます。

つまり、死の四重奏のうち、4の「腹部肥満」を除く3つの症状は、インスリン抵抗性が原因だと説明できるのです。
では、腹部肥満はいったいどう位置づけられるのでしょうか。現在では、さらにインスリン抵抗性についての研究が進んでいます。そして、インスリン抵抗性の根本原因は腹部肥満であるという考え方になりつつあるのです。

内臓にたまった脂肪が諸悪の根源

腹部肥満は、上半身肥満、リンゴ型肥満ともいわれます。おなかに肉がつくといっても、皮膚と筋肉の間に皮下脂肪がたまる肥満とは違い、腸と腸の間にある腸間膜という部分に脂肪がたまって、腹の奥のほうからへその周囲を膨らませるのです。
腸間膜にたまった脂肪を内臓脂肪と呼びます。内臓脂肪は、分解されると脂肪酸という物質になります。
この脂肪酸が血液によって肝臓に運ばれると、さまざまな異常を引き起こします。その1つが「インスリン抵抗性」なのです。また、肝臓は脂肪をつくる臓器ですから、肝臓に脂肪酸が運ばれてくると徹底的に脂肪がつくられます。
その結果、脂肪が血液中にふえたり肝臓にたまったりして、高脂血症や脂肪肝が起こりやすくなります。ところで、注意したいのが、内臓に脂肪がたまってもへその周囲が膨らまない場合です。
このような肥満を「隠れ肥満」と呼びますが、こうした状態でも動脈硬化が起こる素地は十分にあるのです。ですから、ふだんの心構えが重要になります。まず第一に、常に体重を測っていて、いつもの体重をオーバーしたら注意が必要です。

内臓脂肪の量は運動の量で決まる

さて、この腹部肥満は、どんな人に起こりやすく、どのようにすれば避けることができるのでしょうか。
腹部肥満は運動量に関係があるので、日ごろの運動量によって内臓脂肪の有無を推測することができます。
運動をたくさんする人は内臓脂肪が極めて少なく、運動しない人は多いことがわかっているのです。
腹部肥満になりやすいかどうかは、その人のカロリー摂取量とは、ほとんど関係がありません。食事の量を控えていても、運動しない人は内臓脂肪が多いのです。
一日中家にいる主婦や机に向かっている会社員は内臓脂肪がたまっている可能性が高いので、運動するよう心がけましょう。
内臓脂肪をへらすには、1日に300kcalを消費する運動量が目安になります。これは歩く場合12000歩、ジョギングで1日2~3kmです。