bloodvessel

チョコレートが血管のしなやかさを保って動脈硬化を防ぐ

放置できない動脈硬化

動脈硬化とは、動脈にコレステロールや中性脂肪などがたまって動脈の血管壁が厚くなり、弾力性が失われ、動脈全体が硬くなった状態をいいます。
これは、動脈の血管壁にコレステロール中性脂肪、カルシウムが沈着することによって起こります。動脈硬化は全身のいたるところで起きます。
たとえば、冠状動脈が硬化すれば心筋梗塞が、脳動脈が硬くなれば脳梗塞が起こる原因となります。また、大動脈が硬化したり、遺伝的な動脈壁の異常などで血管の一部がコプ状に膨らみ、これが破裂して大出血を起こすと、動脈瘤破裂という致命的な病気に至ります。このような深刻な事態にならないまでも、動脈硬化によって血流が悪くなれは、酸素や栄養が体のそれぞれの組織に行き渡らなくなります。そして、臓器の機能低下を招く可能性もあります。ですから、予防はもちろんのこと、早期治療が必須となります。
コレステロールの血管壁への沈着を防ぐには、薬の服用や食事・運動療法が有効です。コレステロール値が高い人は症状が進む前に医師の指導を受けたほうがいいでしょう。生活習慣、食習慣などを根本から変える必要があります。

動脈の柔軟性を握る弾性線維

動脈硬化の予防と治療には、コレステロール値を正常にするとともに、動脈の柔軟性を損なう原因となるカルシウムの沈着を防ぐことも非常に大切です。
動脈は土管のようなもので、血液はその土管を勝手に流れている、と思われがちですが、そうではありません。実際には動脈はゴムのような柔軟性に富む臓器であり、心臓の拍動に合わせて収縮をくり返して血液を先へ先へと送っています。
この動脈の収縮運動を支えているのが、動脈の周囲をパームクーヘン状に取り囲んでいる、エラスチンと呼ばれる弾力性に富んだ線維です。
動脈は外側から外膜・中膜・内膜の三層からなっていますが、エラスチンは主に中膜にへいかつきん存在する平滑筋細胞から作られています。平滑筋細胞は、自らも収縮する特性をもち動脈の柔軟性を保つ役割を担っています。
エラスチンは、たいへん弾力性のある線維です。ところが、加齢により状況は変わっていきます。
カルシウムやリン酸がエラスチンに沈着するようになり、動脈の石灰化が起こるのです。すると、動脈は弾力性を失って十分に収縮せず、血液を円滑に送り出すことができなくなってしまいます。動脈硬化を誘発する二番目の要因は、カルシウムの沈着なのです。

チョコレートの成分は、動脈を柔軟に保つことができる

エラスチンの石灰化にを抑制するのは、カルシウムの沈着を防ぐしかありません。ビタミンKは、このカルシウムの沈着を抑制する作用があります。
です。ビタミンK は、カルシウムの結合を調節する「γ-カルボキシルグルタミン酸(Gla) 含有たんばく質」(以下、Glaたんばく質)を作るからです。Glaたんばく質は、ビタミンK によってグルタミン酸( アミノ酸の一種) を元に作られ、存在する場所によって二種類に分かれます。
骨にあるオステオカルシン(骨Glaたんばく質) は骨へのカルシウム結合を強固にして丈夫な骨を作り上げる手助けをします。
軟骨や動脈など軟部組織にあるのがマトリックスGlaたんばく質で、軟骨や動脈が硬くならないよう、カルシウムイオンの結合を調節する働きをしています。
こうしたビタミンK の働きに注目し、天然物の中でビタミンKと同程度の作用をもつものが存在します。それは、チョコレートに含まれるカカオポリフェノールという成分です。実はカカオポリフェノールには、以前から動脈硬化を防ぐ働きがあることは明らかにされていました。
コレステロールをはじめとした脂質が動脈硬化を引き起こすのは、体内で発生した活性酸素と呼ばれる酸化力の強い酸素によって脂質が酸化され過酸化脂質となり、これが血管を障害するからです。カカオポリフェノールは活性酸素を消去し、脂質が血管に悪影響を起こさないように働きます。
今回、新たに確認したのは、カカオポリフェノールには、ビタミンKと同じく体内におけるミネラルの代謝(入れ替わり) を調節する働きがあるということでした。
カカオポリフェノールがもたらす動脈硬化防止作用のしくみは、まだはっきりとわかっていませんが、動脈硬化の予防にはたいへん心強いものです。
チョコレートは、抗ガン作用・抗アレルギー作用・抗ストレス効果などさまざまな生理作用を備えています。ちなみに1997年8月、122歳で亡くなった世界一長寿のフランス女性の好物はチョコレートで、毎日食べていたそうです。

血管の詰まりを防ぐ食品のベスト1はマグロのトロ

100種類以上の食品の血栓予防効果を分析

生活習慣などにもよりますが、一般に老化現象として、加齢により血管からはしなやかさが失われ、血液もドロドロと濃くなってきます。すると、血液の塊である血栓ができやすくなり、血管の詰まりが起こりやすくなります。
食物に含まれる機能性成分によって血栓の予防ができないかと、さまざまな研究が行われています。
その中で、野菜や魚の血栓を防ぐ効果を一つ一つ分析して、それを点数で表してみることにしました。
これを、「血栓予防点数」と呼んでいます。これまでに100%種類以上の野菜や魚を分析して、血栓予防点数をつけてきました。その結果、100g当たりの点数で比較して血栓予防効果が最も高かったのが、本マグロのトロで、1600点という点数でした。ほかにサバ、ハマチ、マダイが1500点前後と高く、これにマイワシ、ウナギ、サンマ、ハモと続きます。これらの魚にはE PA (エイコサペンタエン酸) やDHA (ドコサヘキサエン酸) という不飽和脂肪酸が豊富なのが特徴です。
このEPAやDHA には、さまざまな効能があることが近年の研究から明らかになってきています。
なかでも、血栓ができるのを防いだり、悪玉コレステロールをへらしたりするという働き健康にとってたいへん有用なものです。一般に食卓に上るマグロやハマチ、マダイなどはたいてい養殖のものですが、養殖の餌にはイワシが使われています。イワシもEPAやDHAを多く含む代表的な魚の一つですから、そのイワシを餌にしている養殖の魚が高得点なのは納得がいきます。
野菜については、ニンニク、ホウレンソウ、ニラ、トマトなどが高く、果物ではマスクメロン、プリンスメロンといったメロン類が高得点になっています。

血栓を予防する魚介類の点数一覧

  • 1400点以上…本マグロ(トロ)・ハマチ(養殖)・マダイ(書殖)・サバ
  • 1000点以上…ブリ・マイワシ・ウナギ(焼き)・サンマ
  • 800点以上…ニシン・サワラ
  • 500点以上…シシヤモ・サケ・アジ・アナゴ
  • 400点以上…アユ(養殖)・カマス
  • 200点以上…タイ(天然)・タラコ・カジキ・カレイ・スズキ
  • 100点以上…ツナ缶・カキ・カツオ(生)・キス・イカ
  • 100点以下…タラ・タコ・本マグロ(赤身)・クルマエビ・シジミ・アサリ

血栓を予防する野菜類の一覧

  • 100点…ラディッシュ・シュンギク・インゲンマメ・ホウレンソウ・パセリ・トマト・ニラ・ニンニク・ナガネギ・プリンスメロン
  • 50点…サラダ菜・大根菜・ワケギ・カブ・シソ・アサツキ・アスパラガス・チンゲンサイ・イチゴ・グレープフルーツ
  • 30点…モヤシ・セロリ・レモン・ミツバ・グリーンピース・ニンジン・タマネギ・ブロッコリー

1日1000点をバランスよくとる

ただし、血栓予防点数がそっくりそのまま血栓の防止に反映するわけではありません。食品の作用は薬品とは違い、さまざまな成分の複合的なものですから、絶対に正確な一定の数値というのはありえないのです。
とはいえ、血栓予防の目安としては十分に活用できると考えています。血栓予防点数のつけ方は、魚の場合はEPA 、DHA の量と血栓予防効果とが相関していることがわかりましたので、これらの含有量で点数をつけました。
野菜、果物については、やはり血栓を防止する物質であるアスピリンと効果を相対的に比較することから、点数をつけました。
この際、野菜や果物をジュースにして測定しているため、点数は水に溶ける成分の効果だけを示すものになっています。しかし、水に溶けない成分に血栓を防ぐ効果があることもありますから、実際の効果はこの限りではないでしょう。
しつこいようですが、あくまでも目安なのです。これらの数値は生の状態での値ですが、加熱、加工してもさほど効果が変わらないことがわかっています。
実験でもイワシをさまざまに加工調理したのですが、意外に数値は維持されていました。食品によっては、加熱することでむしろ血栓予防効果が高まると考えられるものもあります。では、血栓予防のためにはどのような食事を摂ればいいのでしょうか。目安としては、1日に血栓予防点数が600点になるような食事をすることです。それも、できるだけいろいろな食材をバランスよく取り入れることが大事です。点数が高いからと、マグロのトロばかりを食べるわけにはいきませんし、なにより栄養バランスを考えた場合、多種類の食品を食べるのが基本です。1回1000点以上の抗血栓食を食べるだけで血栓の予防にかなりの効果があることが、実際に食事をしたうえでの実験でわかっています。
実験は、5人で9食同じものを食べて、血液を固める血小板の凝集作用がどのくらい抑制されるか、そして血液がスムーズに流れる能力を示す流動性がどのくらい向上するかを検査したものです。実験開始時の一食目は人によって数値がバラバラだったのが、9食目には平均してきました。このことからも抗血栓食をコンスタントに食べていれば、影響がはっきり出るのでは、という印象を持っています。こうしたことから、成人病(生活習慣病) を防ぐためにも、1週間に最低2回、1回1000点以上の食事をしてほしいものです。同じ血栓予防食でも、メニューを魚中心にしたら、次の食事は野菜中心にするなどの変化をつけて、より多くの食材を取り入れるようにしてほしいものです。

イワシは血管の詰まりを防ぐ

背の青い魚に多い成分が血栓を防ぐ

「魚をたくさん食べるエスキモーには、血栓症が少ない」という事実は、すでによく知られていることです。血栓症とは、血管中に血栓(血の塊) ができる病気、または血栓にうpって引き起こされる病気をいいます。
専門家がエスキモーの食事を分析したところ、有効成分として抽出されたのがEPA (エイコサペンタエン酸) とDHA(ドコサヘキサエン酸) という脂肪成分でした。これらの成分はイワシ、サバ、サンマなどの背の青い魚に多く含まれ、血が固まるのをおさえる作用があることがわかっています。エスキモーたちは、魚を食べて多量のEPA とDHA を摂取していた結果、血液が固まりにくい。いい換えれば血栓のできにくい血液になっていたのです。
EPA とDHAの効果についてはこちらです

一方、肉食中心の欧米人は、心臓の血管が詰まって起こる心筋梗塞や、脳の血管が詰まって起こる脳梗塞などの血栓症の発生率が非常に高くなっています。
これは、動物性の肉を食べることで、血液を固まらせる働きをもつアラキドン酸という脂肪成分が血液中にふえるため、血栓ができやすくなっているのです。

マイワシの漁獲期の冬に血栓症が激減

イワシ
いわし

それでは、日本人の場合はどうでしょうか。日本人は魚を頻繁に食べている漁村と、あまり食べない山村、これらの中間として都会の人々を対象に血液を調べ、魚に多くて血栓を防ぐEPAと、肉に多くて血栓を招くアラキドン酸の量を比較してみることにしました。

実際に魚を食べるのは、漁村では毎日、都会では過に2~3回、山村では月に数回というのが平均的な頻度です。
これに比例するように、アラキドン酸に対するEPAの割合(EPA の量をアラキドン酸の量で割った値) は、漁村では1.4、都会で0,4、山村で0,2でした。ちなみにエスキモーでは9.0、欧米人では0,03です。この対象地域の中から、北茨城の漁村・大津町などの住民について、さらに詳しく調べてみました。

血液中のEPAの量や血栓症の発生率などを追跡調査してみたのです。その結果、おもしろいデータが得られました。
一般的に、冬は寒さのために血管が収縮して、脳梗塞や心筋棟塞の発生率が高くなるといわれます。ところが、ここでは夏に比べて冬のほうが、脳梗塞や心筋梗塞が極めて少なかったのです。

大津港の冬はマイワシの漁獲期で、脂ののったイワシがたくさん獲れ、家庭で食べる畳もふえます。その結果、血液中のEPAも多くなり血栓を予防したと考えられます。反対に、イワシの漁獲高がへる3月以降では、血液中のEPA の畳も少なくなり、血栓症が急増したというわけです。こうしたEPA の効果は、実験でも確かめられています。血小板の浮遊液を入れた試験管に、

  1. 1ミリモルのEPA
  2. 2ミリモルのEPA

をそれぞれ加え、血液を固めるアラキドン酸1ミリモルを滴下しました。すると、1 の1ミリモルのEPA ではわずかでしたが血小板が固まるのを抑制する効果がみられ、2の2ミリモルのEPA ではみごとに血小板が固まるのを抑制していたのです。

実験を行ってみる

これで意を強くした私たちは、自分たちが実験台となり、人間の体で実験してみることにしたのです。

実験では、EPAを最も多く含む魚であるイワシを一度に8~10尾食べて、血液中のEPA の量を測定しました。すると、イワシを食べた後3~5時間で血液中のEPA の吸収量はピークになり、イワシを食べる前にはアラキドン酸に対するEPA の比率が約0.5だったのが、たちまち1.8にまで上昇していたのです。
これは、毎日魚を食べている漁村の人のEPA の量と同程度です。では、普通の食事に魚を取り入れた場合はどうでしょうか。

今度はイワシに限らず、カツオ、サバ、ニシンなどの背の青い魚を刺し身、煮付け、焼き物と調理法を変えて、朝昼晩の3食、3日間続けて食べてみました。
1食当たりの魚の量は、1人約300g です。2日後に血液を採取して、1ミリモルと2ミリモルの濃度のアラキドン酸を加えたところ、1ミリモルでは有意に血小板が固まるのが抑制されていました。

以上のような調査や実験から、アラキドン酸に対するEPA の割合が一定以上になると、血液の凝集が抑制されることがわかりました。したがって、血栓症を予防するには、少なくとも1日1食は魚を食べるようにするとよいでしょう。

現代人は、青魚を食べる機会が極端に減り、肉を食べる機会が非常に増えています。魚を食べる機会を増やし、肉を食べる機会を減らすことが健康を手に入れる大事な食習慣だと思います。